小腸の癌はなぜ少ないのか?


 一番の大きな理由は、「小腸は免疫能が高いので癌が出来にくい」 のです。

1)小腸の役割、2)小腸の構造、3)小腸の免疫の仕組み、4)腸内細菌、5)小腸の癌の種類に

分けて説明しましょう。

 

 1)小腸の役割

 

 小腸は、消化の最終段階(炭水化物は単糖にまで、タンパク質はアミノ酸にまで、脂肪はグリセリンと脂肪酸にまで分解する)の場所であると共に、それら食べ物からの栄養{単糖(ブドウ糖)、アミノ酸、脂肪酸}を吸収するのが主な働きです。体に必要な栄養分を吸収しなければならないため、吸収してはいけないもの、即ち、感染症を起こすような有害菌、毒性のある物質や有害な異物を排除する必要があります。そのため、小腸は免疫機能が高いのです。

小腸では、多くの癌を誘発する毒性物質や細菌、ウイルス等が排除され癌が出来にくい環境にあります。また、癌細胞に対しては、これを認識し排除し易い免疫環境であると言えます。

**昔は、腸管は単なる消化吸収の場と言われていましたが、20数年前から腸管には、免疫細胞の50-70%が存在することが分かり、腸管免疫として注目されています。

**鼻腔―咽頭―肺―腸管は、体の外部と内部を分け隔てる粘膜があり、免疫細胞が活躍しています(粘膜免疫)。口を開いて中を見ると、口から肛門まで管の中を下界(外部)が続きます。下界の雑菌が体の中を通る消化管の中に入って行くのですから、いろいろな細菌感染や毒素による病気にかからないのが不思議なくらいです。これらから守ってくれる小腸の免疫機能が、パイエル板です。

 

2)小腸の構造

 

 小腸は、空腸・回腸とからなり4~6mもの長い臓器で、多数のひだがあるので、広大な面積になり吸収が効率良く行われます。一方、この多数のひだのために、画像診断での異常陰影が発見しづらいという面もあります。また、小腸は、口からも肛門からも遠いため、内視鏡を入れるのが難しいこと、更には、初期症状も殆ど無い事などが、小腸の癌が発見されにくい原因です。

 

3)小腸の免疫の仕組み

 

 小腸の内側(管腔側)には、絨毛と呼ばれる小さな突起が密集して栄養分を吸収する役割を果たしています。そのところどころに絨毛が未発達の領域がパッチワーク状に点在しているのがパイエル板です。このパイエル板の免疫で重要な働きをしているのがM細胞です。

・腸管内腔の細菌などに対しては、それら細菌の抗原を取り込み、T細胞やB細胞、マクロファージに提示(抗原提示)して、パイエル板内の免疫細胞群に抗原情報(細菌情報)を伝達します。

・この時、癌細胞に対しても、癌抗原を提示し、免疫応答が起こり処理されるので癌になりにくいのです。パイエル板内では種々のリンパ球の間で複雑に免疫情報処理が行われています。

・病原微生物に対しては、IgAの分泌を中心とする免疫応答による排除が関与しています。

・腸粘膜表面はIgAという抗体によっておおわれ防御されています。

・食物由来のタンパク質や腸内の常在細菌に対してはアレルギー反応などの異常な免疫反応が起ら

ないよう免疫寛容が起こり、栄養素は吸収され、常在細菌は排除されず存在することが出来るのです。

即ち、病原菌や毒素が体内に入らないよう、パイエル板のM細胞で取り込み、T細胞、B細胞、マクロファージに抗原を提示し知らせ、免疫応答が起こります(→リンパ管を通って全身に伝えれる)。

一方、食べ物や腸内の常在細菌にまで免疫応答しては困るので、免疫反応が起こらないように(制御性T細胞による免疫寛容がおこる)しているのです。

 4)腸内細菌

 

 腸内には様々な種類の細菌が集まっており、「腸内細菌叢」、最近では、様々な花の集まる花畑のように見えることから、「腸内フローラ」とも呼ばれて、多くの人に知られるようになってきました。これらの腸内細菌は、小腸でも大腸でも同じと思われがちですが、実は少し違います。

・特に、善玉菌の代表格として知られる乳酸菌とビフィズス菌は、どちらの菌も感染予防に力を発揮しますが、その住む場所と働きが異なります。乳酸菌は、酸素のあるところでも生存できますが、ビフィズス菌は酸素のあるところでは生存できません。

・乳酸菌は、主に小腸下部から大腸に住んでいて、乳酸を産生します。乳酸菌の仕事場は小腸です。小腸では食べ物をアミノ酸、ブドウ糖、脂肪酸に最終分解し、これら栄養素を吸収します。そのため上記したように多数の免疫細胞が集まっています。乳酸菌は特に免疫機能のバランスを維持する働きがあり、小腸が正常に働き免疫力が高まるように働きます。

・ビフィズス菌は、嫌気性菌なので、酸素が少ない大腸が住みやすく、乳酸と酢酸を産生します。

 ビフィズス菌の仕事場は大腸です。大腸では小腸で吸収しきれなかった栄養素やミネラルが吸収され、排泄されやすいように水分が吸収され、便の調整をします。ビフィズス菌は体の機能を正常に保つ、恒常性を維持する働きがあり、大腸の働きが正常になり、便秘や下痢にならないよう働きます。

即ち、小腸で免疫機能のバランスの維持に働くのが乳酸菌、大腸で体の機能の恒常性の維持に働くのが、ビフィズス菌です。

 

5)小腸の癌

 

 異常な細胞が過剰に増生してつくる組織の塊を,腫瘍、または新生物といいます。

腫瘍のうち,浸潤や転移を起こさず,成長にも限界があるものを良性腫瘍と言います。

そうでないものを悪性腫瘍といい、悪性腫瘍のことを癌と言います。

・小腸悪性腫瘍としては、腺癌、悪性リンパ腫、平滑筋肉腫、カルチノイドがあります。

・腺癌が最も多く小腸の内側の粘膜の中にある腺細胞に発生する癌で、胃近くの小腸で発生します。

・平滑筋肉腫は、肉腫の一種で、小腸の平滑筋細胞から発生し、大腸の近くの小腸で発生します

・良性腫瘍では、腺腫、平滑筋種、線維腫、脂肪腫などがあげられます。