なぜ、体温は37℃なのか、40℃でも30℃でもいいじゃないか?
なぜヒトは、体温が一定の恒温動物に進化したのか、温暖化のためにも、外気温に合わせて体温を変える変温動物でもいいのでは??
2021年ノーベル医学生理学賞受賞は「温度センサーTRPの発見」でした。「温度」はあまりにも日常的で脚光を浴びる話題ではないのですが、体温は1℃違うだけで身体の代謝は大きく違います(ブログNo.20211210「1℃の差が生・死を決める」)。
また、日常生活でも温度センサーの影響を多く受けています(ブログNo.20211125「キムチ鍋は熱いほうが辛い」)。
今回は、「なぜ、体温は37℃か?」という体温の不思議に迫ってみたいと思います。
まずは、温度・体温を論じるために知っておくべき基礎事項を6項目あげ、3つの結論からまとめてみました。
1)変温動物と恒温動物との違い
動物は、トカゲ(爬虫類)、カエル(両生類)、コイ(魚類)、ウナギ(円口類)など外界の温度によって体温が変化する変温動物から、体内で熱を産生し体温を一定に保つ哺乳類などの恒温動物に進化しました。我々恒温動物は、食物を食べ代謝したエネルギーを熱源とし体温を高く維持するために、大量の食物の摂取が必要です。変温動物は、食物から熱を得る割合は少ないが、太陽光から熱を得(日光浴)て体温を上げます。恒温動物が、体温を高く、一定に維持することの意義は何か。
なぜ、変温動物から恒温動物に進化したのか。日光浴で熱を得ていたほうが簡単かもしれませんが、動物は生きていくために、食物を得(餌の獲得)、さらに天敵から逃げ延びなければなりません(常に素早い動きと持続力が必要)。変温動物は、熱産生のための日光浴の時間と敵から逃げ餌を獲得する時間のどちらを優先すべきなのか?です。恒温動物は体内で熱産生し、常に高い体温を維持し、瞬時に高い運動性を発揮し天敵から逃げ延び、餌の捕獲にも便利です
要点1)変温動物より、恒温動物の方が生き延びるに適している
2)人はエネルギーの75%を体温維持のために使用するが、トカゲは日光浴で熱を取り入れ、体温を上げる
人は食べ物からの栄養を代謝体内で起こる化学反応し、最終的にミトコンドリアと言うエネルギー生産工場でというエネルギー通貨に変えて利用しています。体温調節は、外界の温度条件に対する対応という面だけでなく、餌の確保・敵からの回避という生物間の相互作用にも大きな役割をになっています。
**トカゲの天敵はシマヘビです。天敵のシマヘビがいる島のトカゲの平均活動体温は36℃、天敵・シマヘビのいない島のトカゲの平均体温は32℃でした。
トカゲは明らかに天敵から逃げるために高い体温を維持しています。
(参考:東邦大学 生物学の新知識)
要点2)生き延びるためには高いエネルギー、体温が必要。
3)代謝(体の中での化学反応)は、温度が高い方が反応は活発。
温度が高い方が化学反応性は高く、高い運動性が得られます。料理でも熱をかけたほうが早くできるなど自然界の法則です。
よって、体温を高く維持していることは、エネルギーを多く産生でき、高い運動性を維持できます。
要点3)一般に、化学反応は、温度が10℃上がると反応速度は2~3倍上昇する
4)人は外気温(環境温度)に合わせて体温を調節する機能がある。
人は、体温を一定に保つ調節機能(視床下部にある体温中枢)を備えており、熱産生と熱放散の
バランスを保っている。
暑くなれば発汗して熱を放散し、寒くなれば筋肉を収縮させ熱を産生して、体温を一定にしている。
要点4)人の体は、体温調節機能があり、10~20℃の気温変化なら順応して生活できる。
5)人の体温そのものの変化の範囲は気温変化ほど大きくない。
ブログNo.20211210「1℃の差が生・死を決める」で述べたように、一般に、人の細胞の温度の上限は43℃以上では死に、42℃以下では生存するが、下限は34℃以下で死ぬ。
要点5)人の体温は、42℃以下で、35℃以上が安全
6)ミトコンドリアでのエネルギー産生と副産物フリーラジカル発生
エネルギーを生産するミトコンドリアのATP生産速度は温度に依存して高くなるが、このATP生産に伴ってできる副産物の
フリーラジカル(老化・細胞障害・酸化ストレスの素)も温度に依存して高くなる。
すなわち、体温は高いほうがエネルギーは多くできる(利益は高い)が、リスクとしての悪者・フリー
ラジカルも多くできる。よって、その折り合い(リスクの最小化)が37℃である。
(参照:東邦大学 生物学の新知識 長谷川雅美)
要点6)体温は、利益(エネルギー)とリスク(悪者・フリーラジカル)の折り合う点=37℃となる
1~6項目のまとめ
I. 体温は、生命が脅かされる43℃から十分に離れ(少々の発熱で43℃にならない)、
34℃より高い温度となる。
II. 人の細胞は、アレニウスプロット(ブログNo.20211210)から、屈折点(細胞が死ぬ温度)43℃です。一般にその細胞の適温は、屈折点より6~7℃低いので、最適温度=37~36℃となる。
III. 体温は、エネルギー・ATP産生という利益の最大化とフリーラジカルというリスクの最小化となる温度・37℃となる。
以上、生物進化的、温度化学反応速度的、エネルギー産生での利益とリスクの観点から、
体温は、37℃が最適と思われる!
PS:
バンダナ先生は、先日、3回目のコロナワクチンを摂取しました。その夜から、少々、ふしぶしが痛くなってきました。発熱の前兆だなと、夕食は、おもっきし沢山食べ、さらにパン・クッキー・果物も食べ、エネルギー補給準備万端。
予想どうり、翌朝から微熱、想定内のことなので、薬は飲まないと思っていたのですが、やはり、食欲もなく、発熱でえらくて我慢できずPL顆粒(風邪薬)を飲み、ハアーハアー言いながら、その日は早めに帰り寝ました。体が熱くて、水分補給とトイレとでなかなか寝た気がしませんでしたが、6:28(6:30からラジオ体操)のアラームで目覚めた時には、随分よくなっていました。
お風呂で体温を38℃に上げるのは、さほどえらくはないのですが(外から熱をもらうので)、自発熱(自分で体内で熱を作る)で38℃に上がるのは結構つらいし、エネルギーも相当必要です。くしゃみ1回の消費カロリーは4Kcal(100m走と同じかロリー)、咳は1回2Kcal消費します。
発熱するな、風邪かも、と感じたら、しっかり食事を取ってエネルギーを蓄えておきましょう!