第2回 うつ病とヒートショックプロテイン(HSP)

 

うつ病の人は、健常人に比べ、明らかに、ヒートショックプロテイン(HSP)が低いことを実験で確認しました。よって、うつ病の人は、ストレスを受け易く、自己治癒力が低下しています。

しかし、マイルド加温やHSP入浴法で加温すれば、うつ病の人のHSPは明らかに増加しました。更に、うつ病の患者さんにマイルド加温療法を実施した臨床研究では、うつ状態が改善される傾向を示し、うつ病治療の新しい治療法として期待されています。

 

 

ヒートショックプロテイン(HSP)の研究を始めたころから、“絶対にうつ病の人はHSPが減少している”と想像していました。そして、“いつか、自分自身で、うつ病の人達のHSPを測定し確認したい。そして、うつ病の治療にマイルド加温やHSP入浴法を活用してほしい”、と願っていました。幸運な事に、桶狭間病院藤田こころケアーセンターの鈴木先生から、「感情障害における温熱療法」というテーマで共同研究を実施する機会を得て、待望のうつ病の患者さんのHSPを測定することが出来ました。以下は鈴木先生との共同研究の結果です。

 

 

1)「感情障害における温熱療法(マイルド加温療法)」の実験内容の要約

 

 (この内容は、2011年日本ハイパーサーミア学会第28回大会にて発表されております。)

1-1. 目的と背景

 近年は、精神科の敷居が低くなり、軽症例も増加している中で治療法の幅も広がってきた(薬物療法、精神療法、疾患教育、環境調整、復帰リハビリ等)。しかし、治療に関わらず、社会復帰につながらないケースも多い。

 これまで精神科領域では、全く知られていなかった新しい治療のアプローチとしてマイルド加温療法(温熱療法)が期待できる。期待できる理由は、1.ヒートショックプロテイン(HSP)の自己治癒力の増強、2.臨床応用において治療と予防の両面で利用可能、3.単に温めるだけでなく、生体防御機能に関与する生化学的変化である、等である。

 そこで、1.感情障害の患者のHSPの値、3.マイルド加温療法で感情障害患者のHSPが増加するのか、3.桶狭間病院藤田こころケアーセンターでの臨床研究を検討した。

 

1-2 実験方法と結果

 ・桶狭間病院藤田こころケアーセンターの倫理審査委員会にて承認を得て実施した。

 ・双極性障害患者のうつ状態、双極性障害患者の躁状態、健常者の各6-5名のHSPを測定した。

 ・臨床効果実験は入院中の感情障害患者14名をトータル10回マイルド加温療法を実施して、

  抑うつ気分はBDI-IIで、不安はSTAI状態不安、STAI特性不安で、自律神経機能は

  心拍変動係数で、筋力は平均握力で、効果判定した。

結果-1

感情障害の患者のHSPの値

 ・うつ状態では、健常者に比し有意にHSPは減少していた。

 ・躁状態では、健常者との有意差は認めなかったが、低い傾向にあった。

結果-2

マイルド加温療法でHSPが増加するのか

 ・ 感情障害患者においても、マイルド加温によって、有意にHSPは増加した。

  HSPは、3日後をピークに、加温1~4日間有意に増加した。

 ・健常者でのHSP発現パターンに比し、2日後(健常者)から3日後(感情障害患者)と

  発現ピークが遅い傾向にあったが、その発現量は有意に増加していた。

結果-3

桶狭間病院藤田こころケアーセンターでの感情障害患者のマイルド加温療法臨床研究

感情障害の患者さんの

 ・抑うつ気分、不安は軽減した。

 ・自律神経機能は軽快した。

 ・筋力は上昇した。

1-3 結果の考察

 1.感情障害の患者では、うつ状態で明らかに健常者に比しHSPが低いことが確認できた。

   この結果は、感情障害患者の自己治癒力が低下していること、感情障害患者が全身の

   身体不調を呈し易い事に関与していると考えられる。これが感情障害の原因であるの

   か結果であるのかは、まだ不明である

 2.HSPが元々低い感情障害患者においても、マイルド加温療法によりHSPの明らかな

   増加が認められた。

 3.症例数が少なく有意差検定までできなかったが、マイルド加温療法により、抑うつ気分、

   不安、自律神経機能、握力の改善傾向が認められた。

 

 これらの結果から、感情障害のうつ状態に、薬物療法以外の新たな治療法の1つとして

 マイルド加温療法の活用に期待が持たれる。今後、HSP上昇の効果を持続させる手法の

 検討が重要と考える。

 (これについては、家庭で自分でできるHSP入浴法を継続することが望まれる)

 

 まずは、HSP入浴法を2~3週間継続して下さい、おまけに肌もきれいになります!

  (**HSPには多数の種類が存在しますが、上記実験に関するHSPは、

    分子慮70,000のHSP70ファミリーをHSPと称しています。)

 

1-4. うつ病とHSPに関する文献

 1.最も最近の報告として医療ニュース(2017年6月)にも掲載された報告

  ・岡山理科大と徳島大学の共同研究グループが、マウスの実験で、HSPがうつ病の発症に

   関与していることを明らかにし、サイエンス・アドバンシーズに発表した。

   研究グループは、ストレスを与えてうつ状態にしたマウスの脳の海馬で、HSP105

   と呼ばれるタンパク質が著しく減少したことに着目。HSPを増やす薬剤テプレノンを

   投与すると、うつ行動が改善したという報告です。

   ストレスを受けると、脳の神経細胞の維持に欠かせない神経栄養因子が減少するが、H

   SP105の働きによって増えることも分かったと言うことです。

 

 **HSP70の転写因子を活性化するテプレノン(GGA:エイザイの胃薬セルベックスに含まれる

  主成分)の投与でうつが改善したことからHSPがうつ病の予防や新たな治療法の開発に役立

  つ可能性を示しました。

 2.大うつ病性障害でHSP70のmRNAに障害(部分欠損、アミノ酸異常等)を認めた。

  ・Biochem Biophys Res Commun. 1996

 3.HSP70は神経細胞体に多く存在する。

  ・J Neurosci Res.2007

 4.HSP70に神経保護作用がある。

  ・Mol Pharmacol. 2005

 5.双極性感情障害にはHSPの遺伝子多系が存在する。

  ・Neurosci Lett. 2009

 6.双極性感情障害のリンパ球のHSP70が減少

  ・Psychoneuroendocrionology 2009

 7.HSP70以外の報告

  ・大うつ病性障害患者(47人 )と健常者(57人)の腸内細菌について、善玉菌のビフィズス菌

   と乳酸桿菌の菌数を比較した結果、うつ病患者群は健常者群と比較して、ビフィズス菌

   の菌数が有意に低いこと、善玉菌が少ないとうつ病リスクが高まることが示唆されました。

   (20170524にJournal of Affective Disorders のオンライン速報版で公開)

  ・セロトニンは、精神の安定や幸福感を司る脳内物質で、不足するとストレスを感じやすく

   うつ病の引き金になることもあるという。

 

2)大うつ病エピソードの診断基準にある9つの症状(下記1~9)がある。

1.抑うつ気分

2.興味や喜びの喪失

3.食欲減退(または増加)

4.睡眠障害(不眠または睡眠過多)

5.精神運動の制止または焦燥

6.易疲労性、気力の低下

7.強い罪責感

8.思考力低下、集中力低下

9.自殺念慮

 

 これらの症状の多くは、HSPの作用である、ストレス防御能、代謝の促進、疲労回復、自己治癒力の増強等のHSPの働きが低下していること、即ちHSPの減少が原因の1つと思われる。よって、マイルド加温療法や家庭でできるHSP入浴法によって、HSPを増加させることが改善につながるものと考えられる。

 

3.ストレスやプレッシャーを感じたら、すぐHSP入浴法を!

  もし、ストレスを受けるとわかっていたら、その1~2日前にHSP入浴法を!

  

 日常的には、うつ病が進展する前の様々なストレスやプレッシャーを受けた時点で、すぐに自宅でのお風呂、銭湯でも良い、余裕があれば温泉に出かけ、HSP入浴法(熱めのお湯で長めに入浴、保温を忘れない:HSP入浴法参照)を実践してほしい。多分、その日だけの(1回の)HSP入浴法でのHSPでは不十分なので、数日(症状によっては2~3週間)続けてほしい。

 

上司にしかられる、大切なプレゼンがある、等、もし、ストレスを受けるとわかっているなら、その1~2日前にHSP入浴をしてほしい。ストレスがめちゃ強いと分かっているなら、数日前からHSP入浴法でHSPを高め、ストレス当日も帰宅後、HSP入浴をしてほしい。

もしかして、と気がついた時点で、すぐ、風呂を沸かして、又は、すぐ銭湯に駆け込んで、HSP入浴法を実践すること! 自分でできる!

 

 うつ病の原因、うつ病の症状、症状の程度等、各人によって異なるので、その治療法も各人に適した方法があると思います。マイルド加温療法、HSP入浴法は、薬物療法等の他のうつ病の治療法と併用してもかまいません。簡単に自宅でできるので、是非、HSP入浴法を実践してみてください。