第1回 運動でもヒートショックプロテイン(HSP)は増加します。

 

・ヒートショックプロテイン(HSP)の増加法と言えば、マイルド加温やHSP入浴法等の熱ストレスが最も効率良くHSPを増加させますが、運動でもHSPは増加します。 

・ゆっくり歩く散歩ではHSPは増加しません。有酸素運動となるくらい、ハアハアとえらいくらいの運動がHSPの増加には必要です。

・1日10分の運動ではHSPは増加せず、30分以上の運動を2週間続けると有意にHSPが増加します。

・運動をやり過ぎるとかえって、HSPは減少します。                  

 

HSPプロジェクト研究所 所長 医学博士  伊藤要子

熱ストレス(体を温める)の方が、効果的にHSPを増加しますが、運動でもHSPは増加します。

運動がストレスだと言うと語弊を招くかもしれませんが、ハアハア息を切らして(低酸素ストレス)、汗をかきながら(熱ストレス)、自分自身の身体に負荷(ストレス)を与えながら走ったり、飛んだり、運動することにより、HSPが体(細胞)に増加します。ゆっくり歩く散歩ではHSPは増加しません。

運動をやり過ぎると逆にHSPは減少するので、HSPが最高になる適切な運動をしましょう。

また、運動が体に良いことは、広く知られていますが、その原因の1つは、運動によって全身の細胞にHSPが増加し、体(細胞)を元気にするからです。

 

 

1)「ためしてガッテン」で行った、スロージョギングと普通のジョギングでの実験結果

 

運動でもHSPは増加しますと提案すると、早速にためしてくれました。

 

1-1. ガッテンお勧めの1心臓に負荷の無い(心拍数が変わらない、疲れない)スロージョギングと260%の負荷(カルボネーン方式で算定)のジョギングを、各々6人が1日30分間、2週間続けました。

 

1-2. 各々、ジョギング前と2週間ジョギング後のHSPを測定しました。

 

結果:1)のスロージョギングではHSPは増加しませんでした。

   2)の60%負荷ジョギングでは、有意にHSPは増加しました。

 

1-3. 結果の考察:身体への負荷の無い運動(疲れのない、ゆっくりな散歩)では、HSPは増加しないが、自分がきついなと思うくらいの負荷が加わる運動であれば、HSPは増加する。

2)ネズミの回転トレッドミル(回転ぐるま)運動実験での結果

 

ネズミ(マウス:体重約30g程の小さなネズミ)を下図のような回転式トレッドミルに入れて、

回転車のように走らせて、HSPを測定しました。

 

2-1. ネズミを1~5群に分け、2週間毎日回転式トレッドミルで1走らせない、210分走らせる、330分、460分、

  5120分とそれぞれ走らせ、HSPを測定しました。

 

結果:1日10分のトレッドミル走行のネズミでは、HSPは増加しませんでしたが、30分以上走行のネズミでは、有意にHSPが増加しました。

マウス回転トレッドミル実験の話

 

この実験は内容としては、とても簡単な実験なのですが、実験準備と実際の実験は大変だったのです。

まず、マウスを購入して、回転トレッドミルに1匹ずつ入れて、ちゃんと走るか調べ、まじめに走るマウスのみ選んで5群に分けます。それでも本番になると、走らないマウスがいます。ネズミだということを忘れてるんじゃないかと疑いたくなります。

朝、動物実験室に入ると、トイレと食事以外は、ズート、ただただ、マウスが怠けず走るように観察します。毎日毎日、2週間。

10分、30分は良いのですが、60分、120分となると、マウスも賢くなって、なんとか楽しようとプラスチックの回転トレッドミルにへばりついて走らないマウスが出てきます。割りばしの先を少しとがらせ、お尻をつっついて走らせますが、ウトウトしたり、目を離すと、すぐに怠けるのです。

今でも記憶に残る素晴らしいマウスがいました。

ひたすら2時間殆ど休まず走り続ける犬のようなマウスでした。とても感激しました。もちろんHSPも最高でした。他の1匹は、へばりついて休んでばかりいて対照的でした。

実験をしていると、時々素晴らしい動物や細胞に出会い、感動します。

2-2. : 結果の考察:運動でHSPを高めるためには、時間としては1日10分ではHSPは増加せず、30分以上の運動を2週間程続ける必要があると思われました。

3)ボート選手のワールドチャンピオンシップトレーニングでの筋肉のHSP測定

 

この実験は、Liuらが行った実験で、私の実験ではありませんが、非常に興味ある実験なので紹介します。

(この実験は、Liu, Y et al. J. Appl. Physiol. 86:101,1999に掲載されています)

 

3-1. ボートこぎの選手10人にワールドチャンピオンシップトレーニングを4週間行った時の選手のお腹の右外側広筋のHSPをトレーニング1、2、3、4週後に測定した実験です。

 

3-2. 結果: 選手の筋肉のHSPはトレーニングにより、1週間後約2倍に、2週間後約4.5倍に、3週間後約5倍に増加し、4週間後には約4倍に増加していました。即ち、HSPはトレーニング2週間で最高の増加化率となり、3週間後には2週間後よりやや増加し最大となり、4週間後には逆に減少し、2週間後より低下しました。

 

3-3. 結果の考察: トレーニングの2週間後が最大のHSPの増加率で、3週間後に最大のHSPとなり、4週間続けると逆にHSPは減少します。即ち、運動をやりすぎると、逆にHSPは減少し、パフォーマンスが低下します。よって、試合前の最も効率良いトレーニングは、2~3週間です。HSPには、疲労回復、運動能力向上の効果があるので、試合にはHSPを最大にして望みましょう。

( **HSPには多数の種類が存在しますが、上記実験に関するHSPは、分子量70,000のHSP70ファミリーをHSPと称しています。)

お風呂嫌いの方は、運動でHSPを増加させてはいかがでしょう。ちょっと疲れるくらいのジョギングを毎日30分、2週間程続けてください。

試合前のトレーニングは、やり過ぎはダメです。2~3週間にしておきましょう。そして最後の仕上げは、もちろん、試合1~2日前にしっかりHSP入浴法を実施しましょう。

 (運動と入浴の併用も、もちろん効果的です。別の項目で記載します)