第3章 1.マイルド加温療法は、がん患者さんの要望で始まった!

 

膀胱癌、尿管がん、大腸癌、膵臓癌、胃癌、子宮頚癌、子宮体癌、卵巣癌、乳癌、肺癌、悪性黒色種(メラノーマ)、等のがん患者さんへ。

 

 

私は、もっぱら、基礎の研究者で、研究相手は、細胞やネズミたち。

 

患者さんとの出会いは、全くありませんでした。

 

 

動物実験を行う毎に、ヒートショックプロテイン(HSP)は人の予防医学、健康に大いに役立つとの確信が強くなり、HSPを多くの人に知ってほしい(HSPを市民語に)との思いが強くなりました。

 

 

まず、スポーツへの利用(ストレス防御と疲労回復)と言うことで、元富山医科薬科大学の田澤先生(冬季オリンピックスポーツドクター)との共同研究の結果、2002年冬季オリンピックのクロスカントリーの選手にマイルド加温を適用していただき、みなさん良い成績で、日本初の入賞選手も出ました。

 

 

また、HSPは、ストレス予防、風邪の予防等、実生活に予防医学として大いに役立ちます。せっかく医学部にいるのだから、やはり、手術への適応を、手術は患者さんにとって大変大きなストレスです。術前のマイルド加温は、手術のストレスと術後の疲労に対して、絶対効果的と考えていました。

 

 

2003年東海・北陸ハイパーサーミア研究会の世話人となった時、今しかないと(なぜかそう思ったのです)、意を決してHSP普及のための市民講座を開催しました。全く世間ではHSPは知られていない時代でした。幸運にも、知人のつてで俳優の川津祐介氏が(加温の重要性を身を持ってご存じでしたのでHSPに非常に興味を持って下さいました)、自ら司会をして下さり、また、中日新聞の後援もあり、「温熱療法の不思議」の市民講座は大盛況で、新聞にも報道されました。

 

 

後日、新聞を見たと、胃癌の患者さんが研究室に来ました。「是非、マイルド加温をしてほしい、胃癌摘出術を受けたい」と。そのがん患者さんは、重篤な肝硬変のため手術不能な進行性胃癌で、化学療法を行っても余命1年、だったら、手術を受けたいと1)。

 

 

20046月、NHKラジオ番組「健康ライフ -温熱療法の不思議-」に出演。好評で12月に「続・温熱療法の不思議」と、2度もHSPの話をさせていただきました。はじめて、多くの視聴者の方から手紙を頂きました。特に最終回にお話しした「癌治療の最前線」は、大変好評でした。この放送がきっかけで、初めて著書HSPが必ず病気を治す」の一般書を書きました。

 

 

この番組を聞いて、何度も愛知医科大学病院を訪れた患者さんがいました。やっと会えたと、握りしめた「HSP」と書いた紙を私に見せて、「この先生ですよね。これをやってください」と。甲状腺がんの患者さんでした。ラジオを聞いて「これだ」と思ったそうです2)。

 

 

別に、マイルド加温療法をやってますと広めたわけでもないのに、他に治療手段が無いと言われた重症な乳癌、子宮がんなど癌の患者さんが、お見えになるようになりました。

 

 

研究室の片隅で、患者さんの要望で始まったマイルド加温療法です患者さん一人一人、本当にテレビドラマのような人生があり、その終末に実験室の片隅で、もう一つのドラマを作って逝かれました。

 

 

最初は、患者さんとの同意書で始まりましたが、後に、愛知医科大学の倫理委員会の承認を得て、膀胱癌、尿管がん、大腸癌、膵臓癌、胃癌、子宮頚癌、子宮体がん、卵巣癌、乳癌、肺癌、悪性黒色種(メラノーマ)、等のがん患者さんの臨床研究に発展していきました。

 

 

もともと、細胞やネズミとの会話しかなかった私は、患者さんとどう会話して良いか、迷っていましたが、患者さんは、マイルド加温中に、自分の病態を細かく説明して下さり、困ってることや、子供の事や、親の事を話し、泣いたり、笑ったり、いろいろなことを話し、教えてくれました。幸い、私は、生理学で学位を取得したこともあり、人体の生理機能の知識と、薬剤師なので薬の知識と、臨床検査技師の資格も持っていたので、臨床検査値もほぼ理解できたので、患者さんのQOLが良くなるよう患者さんと相談しながらマイルド加温をしていました。加温後は、ほんのり顔を紅色にして、ほっこりと帰って行かれました。

 

 

最初は、加温装置での基本の全身加温のみでしたが、患者さんの要望と病態のことを考え、局所加温を加えました。「鉛の板を背負ってるような毎日」との訴えから、軽い体操やマッサージをする様にもなりました。全て、患者さんからの要望で改良されてきました。

 

 

実験大好きで研究者になった私は、当初はエビデンス第一主義。エビデンスの無い研究は研究ではないと思っていましたが、がん患者さんとのマイルド加温療法を通じ、考え方が変わりました。偶然の患者さんとの出会いが、HSPの普及に必然であったと思います。

 

 

患者さん一人一人要望も病態も異なり、適正な抗がん剤や放射線の量や時期もかわって来ます。また、マイルド加温療法を要望してお見えになった患者さんを、マイルド加温療法あり・なしの2群に分けることはできません。臨床研究でのエビデンスの難しさを感じました。

 

 

細胞実験から始まった自分の研究が、マイルド加温療法として、HSP入浴法として、実際に患者さんを始め、多くの人々のお役に立てれることは、研究者として、この上ない喜びであり、めったにない大変ラッキーなことです。本当に、患者さんには、感謝です。

 

 

 患者さんの要望から始まったマイルド加温療法は、患者さんのためのマイルド加温療法です。これからも患者さんの要望にあったマイルド加温療法を目指したいと思っています。

 

 

1)重篤な肝硬変で肝機能が手術適応以下のため手術ができないと言われた進行性胃がんの患者さん。まずは、マイルド加温療法で手術適応の最低限まで肝機能を上げ、ぎりぎり手術可能となりました。術中・術後の肝機能障害の確立99%と言う厳しいリスクの中で、手術に向けマイルド加温療法とGGA(セルベックス)HSPを最大に増加させ、手術に臨みました。手術は成功で、術後の肝障害もなく、回復も早く、退院も通常より早い位でした。その後、娘さんとあちこち旅行を満喫してみえましたが、肝転移で亡くなられました。

 

 

2)甲状腺がんの患者さんで、比較的増殖はゆっくりで、マイルド加温療法で、一旦は少しづつ縮小傾向にありましたが、途中で倫理委員会の規定に外れたため、マイルド加温療法が出来なくなりました。本当に心苦しい決断でした。