私たちは仕事や勉強がうまくいかず、目標が達成できなかった時でも、それを乗り越えようと努力し続けることができます。この期待はずれを乗り越えるための“意欲を支える脳の仕組み”を京都大学の小川正晃先生らが動物(ラット)実験で証明しました。従来より、期待どうりうまくいくと、脳内のドーパミンの放出量は増えますが、期待が外れると減ると考えられていました。しかし、この役割では、期待はずれを乗り越える能力の説明ができませんでした。この意欲を支える脳の仕組みは、意欲の異常が深く関与するうつ病や依存性等の精神・神経疾患の新たな解明や治療法の開発につながると期待されています。
1.意欲を支える脳の仕組み
受験や就職試験、昇級試験、試合等一生懸命勉強して合格したり、仕事で成功したりすると、脳内のドーパミン細胞の活動が増しドーパミン放出量が増えて(脳内報酬系の活性化)、嬉しいと感じ、幸せな気持ちになります。反対に目標が達成できないとドーパミン放出量も減り、がっかりまします。しかし、私たちはその悲しみ、落ち込みを乗り越えて、来年の受験のために勉強したり、新しい仕事に挑戦したりと、再度挑戦することができます。
京大研究グループは「期待はずれに対して活性が増すようなドーパミン細胞」が存在すると仮説を立てて研究し、「期待はずれが生じた直後に活動が増すドーパミン細胞」を発見しました。
2.研究方法と結果
・得られるかどうかが不確実な報酬(甘い水)を、ラットが自分から(能動的に)求め続けるように訓練した。
・その結果、ラットはたまたまその報酬が得られずに「期待外れ」が生じても、その後に次の報酬獲得に向けて行動を切り替えることができた。(下図、動課題)
・ドーパミンが増加する細胞は、中脳にあるドーパミン細胞の約半数程度という高い割合で見つかった。
・最新のドーパミン量計測法で、そのドーパミン細胞がある脳の部位で、期待外れが生じた直後にドーパミン量が増加することを見出した。
・さらに光遺伝学法という方法を用いて、期待外れが生じる瞬間に、ドーパミン神経回路の活動を人工的に刺激すると、期待外れを乗り越える行動を駆動することができた。
・以上の結果より、京大研究グループは、期待外れを乗り越える機能を支える新しいドーパミン神経細胞とその神経回路を明らかにした。
この研究を行なった小川先生らのコメントに大変感動しましたので、下記にそのまま掲載します。
3.この研究に携わった研究者のコメント:
本研究の完成という目標に向け、まさしく「期待外れを乗り越える」必要がある状況が、多々ありました。 「途中で諦めてしまっては私たちが見出したドーパミン細胞に対して申し訳ない」という冗談を言いながら、それを乗り越えられるように頑張ってきました。じっくりと年月をかけ、思う存分、納得のいく研究を行える贅沢な環境を与えてくださった、全ての皆様に、深く感謝申し上げます(小川)
(バンダナ先生のコメント:名も知れぬ小さな貧しい研究所で、ドーパミンのおかげで、目標に向かって諦めずに細々と頑張っている研究者もいます。)
4. バンダナ先生から、 “失敗した人、挫折した人、願いが叶わなかった人たちへ”
みなさんも、失敗しても諦めずに頑張ってください。
私たちは、失敗(期待はずれ)を乗り越えるドーパミン細胞を持っているのですから。
でも、それを使うか使わないかは、みなさん次第です!
参考:ドーパミンについて
1)神経伝達物質(神経と神経の情報を伝える物質)の1つです。
ドーパミンは快楽物質、幸せホルモンなどとも呼ばれて、楽しいことをしている時や目標を達成したとき、褒められたときなどに分泌されます。 やる気を出してくれる役割もあります。 ある行為でドーパミンが放出されて幸福感を得ると、脳がそれを学習して、再びその行為をしたくなることもあります。 また、Noさらに大きな幸福感を得ようとして努力をするようになります
2)ドーパミンが増えると
「ドーパミン」という神経伝達物質によってやる気がもたらされています。また、やる気や幸福感だけではなく、多くの生命活動、
特に、感情や、意欲、思考などの心の機能にも大きく関与しています
3)ドーパミンが不足すると
ドーパミン神経が減ると体が動きにくくなり、ふるえが起こったりします。 ドーパミン神経細胞が減少しドーパミンの量が減る理由は
よくわかっていません。パーキンソン病ではドーパミンが減少します。