ダイエット中だから、イベントで大好きなあの服を着たいから、---食べ過ぎないように注意していたのに、美味しいお菓子を食べながらTVを見てたら、つい、つい、全部食べてしまった。という経験は誰しもあると思います。
なぜ、美味しいと、「つい、食べ過ぎてしまう」のでしょうか。
「おいしさの科学」「本当に役立つ栄養学」(著者:佐藤成美)の本に、この「美味しい物を食べたとき」の「快感」と「食べ過ぎてしまう」脳の仕組みについて興味深く書かれているので、ぜひ、皆さんにご紹介したいと思います。
I.「美味しい」と感じるその正体は
「美味しさ」とは、食べ物を食べた時、脳で引き起こされる感覚、「快感」です。
・人は、美味しさを感じることで、食べることに快感がもたらされることで、食欲がわき食べ続けることができ、生命を維持できます。
人は食べないと生きていけない。
・脳では、様々な部位に情報が伝わって、美味しいという感覚を生み出します。美味しさに主に関わるのは、
「思考の脳」と言われる大脳の外側をおおう「大脳皮質」と、「本能の脳」と言われる大脳の中心深くにある「大脳辺縁系」です。
人は、美味しく感じればもっと食べようとするし、そうでなければ、食べるのをやめます。
人類の歴史をさかのぼれば、食べることは命懸けの行為でした。食べ物を見分けるために人類はこの能力を身につけたのです。
II.味はシグナル
・人は体に必要なものは本能的に美味しく感じます。この美味しさを識別する役割をになっているのが味覚です。
味覚には、甘味・塩味・旨味・酸味・苦味の5味があります。甘味・塩味・旨みは美味しく感じます。酸味・苦味は嫌な味です。
・甘味(エネルギー源の糖)、塩味(生体調節に必要なミネラル)、うま味(タンパク質の元となるアミノ酸や核酸)は食経験のない
赤ちゃんでも美味しく感じます。これらは、人体に必要な栄養素の存在を知らせるシグナルだからです。
しかし、苦味(毒素の存在→毒のあるものは苦いものが多い)、酸味(腐敗→腐った物は酸っぱくなる)は危険のシグナルで美味しく感じません。
よって、赤ちゃんでも、甘味や旨みを口に入れると気持ちよさそうな表情をし、苦味や酸味は嫌がるのです。
人は本能的に人体に必要なものを美味しいと感じ、人体に害のあるものは美味しく感じない
III.「本能的な美味しさ」と「経験的な美味しさ」
・経験をかさねると、味覚が発達し、苦味や酸味を受け入れるようになり、コーヒーやビールが美味しくなります。
「本能的な美味しさ」とは、生まれながらに感じる共通なものであり、「経験的な美味しさ」とは、食経験を重ねることで感じ、人それぞれで基準が異なります。そして、美味しさの要因には、味・食感・香り・色・体調・環境・食文化など様々な要因があります。
IV.美味しさを感じる、脳の連携プレー
・食欲とは、生命維持のため、エネルギー源となる栄養素を取るための食行動をコントロールしているものです。脳の間脳にある
視床下部(自律神経の中枢:体温・睡眠等)には、摂食中枢と満腹中枢があり、摂食を調節しています。また、脳にはホルモンなどを介して体内の栄養状態が伝えられ、栄養が不足してれば、脳の摂食中枢が作用し空腹を感じます。十分栄養が摂取できていれば、満腹感を感じ、食べるのをやめます(恒常性の維持)。「食べたい」と思うのはどの動物でも共通で、生体は食べることによって心地よさや喜びを感じさせるようになっています。
美味しいと思う快感が、「もっと食べたい」という感覚を生じさせることで、私たちは生命を維持できる。
・「恒常性の維持」と「快感」という“脳内報酬系”は互いに複雑に関与しながら私たちの食行動をコントロールしています。
V.空腹は最高の調味料
・体重は、摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスの調節の情報で、体重を一定に保つことで、エネルギーのバランスを維持しています。生命を維持し体重を一定に保つため、エネルギー源になる栄養素を摂取するためのコントロールは間脳にある視床下部で行っています。自分で栄養の状態を実感することはできませんが、脳が感知していて、栄養を補給しなくてはならないということを空腹感でしらせてくれ、なにか食べようと行動します。
空腹であれば、より美味しさを感じ、空腹は最高の調味料と言われる所以です。
VI.もっと食べたい
・お腹がすいてなくても、好物があると食べてしまうという、美味しさの情報は、脳内報酬系に送られ、もっと食べたいと言う要求を生じさせます。この時働くのはドーパミンという神経伝達物質です。人を含め動物は本能的に感じる「気持ち良い」とか「快感」が重要な行動の動機付けになり、このような快感の仕組みを脳内報酬系といいます。
・要求が満たされたり、満たされることがわかったとき、脳内報酬系は活性化され、脳に快感を与える経路です。脳内報酬系は食行動を決める重要なシステムで、味覚の学習記憶とも関係があります。食べて美味しいと感じたことを脳は覚えていて、さらにもっと食べようと次の行動を引き起こします。脳は、自分の好きなものを見ただけでドーパミンを放出し、食欲をかきたてます。
一口食べると報酬系は更に活性化され、お腹がいっぱいでもつい好物を食べてしまうのは、この報酬系によるものです。
食べることは、「食べたい」から「食べる」、「美味しい」から「もっと食べる」のループの繰り返しなのです。
もし、食べることが苦痛だったら、食べ続けることができず、生命を維持できません。
そのため、「美味しさ」という快感が与えられているのです。
VII.甘いものは別腹
甘いとか美味しいと感じると、胃腸の働きには関係なく、脳自身が空腹感を生み出します。
・例えば、甘いと感じると又はその美味しさを想像するだけでも、βエンドルフィン(幸福感をもたらす脳内物質)やドーパミン(意欲をわかせる物質)という脳内物質が分泌されます。これらが分泌されると、オレキシンという摂食を刺激するホルモンが分泌され、消化器官の活動が活発になり(胃を広くし、別腹のスペースを作る)、食欲がわき、これが「甘いものは別腹」となる仕組みです。
VIII.なぜ食べ過ぎるのか、止まらない食欲のメカニズム
・肥満の要因は、食べ過ぎと運動不足です。
・猫の脳の視床下部を破壊すると摂食を制御できず食べ続けます。レプチンは脂肪細胞から分泌され、視床下部に作用し、この食欲を抑えます。
人や動物は、食べ過ぎて脂肪が増えると、レプチンの分泌量が増加し、視床下部にある摂食中枢に作用することで食欲を抑えます。
・肥満マウスでは正常なレプチンを作れないため、食欲を抑えられず太ります。肥満状態の人では、摂食は抑制されておらず、レプチンが効きにくい、即ち、レプチン抵抗性が起こります。PTPRJは(レプチン受容体に働く)、レプチンの働きを抑制します。
肥満になると、摂食中枢でPTPRJの量が増え、レプチンが多くてもレプチンが効きにくくなり、食欲を抑えきれず肥満になります。
肥満の人では、PTPRJをより多く産生することで、レプチンの働きが抑えられ、食欲が止まらなくなる悪循環に陥いる。
PTPRJの働きを抑える物質が見つかれば、肥満の治療薬につながるかもしれません。
終わり
美味しさを求める欲望はとどまることがありません。
今や、食品は栄養があって、美味しいのは当たり前となりました。
次は、健康につながる食品の機能性が注目されています。
*今回は、食べたものが体の中でエネルギーに変わる化学反応である「代謝」についてはふれていません。
食べたものは酵素によって分解されエネルギーに変換されますが、それらの過程は、体温、身体の体調、ストレス(脳と消化器は連動している)等に影響されます。食べた物が全てエネルギーになり、身体の構成成分になるわけではないので、実際は代謝を考慮しなければならない。